HPVワクチン(シルガードなど)考
- 2025年8月29日
- お知らせ
本音を言うと私自身はワクチンを積極的には推奨していない。
なぜならば、ごく少ない確率ながら「予防接種は健康な人を、不健康な状態におとしめる可能性のある行為」だからである。
特に重大な副作用を起こした報告のある予防接種については、個人的に聞かれると、「打たなくていいよ」と答えてしまう。
HPV(Human Papillomavirus ヒトパピロマーマウィルス)ワクチンについてもそうだった。(過去形にした理由についてはこれから記す)
HPVには何種類もの型があって、そのうちのある型のものは、子宮頸がんのリスクになり、他にも尖圭コンジローマの原因になるものもある。高リスクのHPVをターゲットにしたものがHPVワクチンである。つまり、HPVワクチンは子宮頸がんの予防になる。
けれども院長自身は、HPVワクチンが、子宮頸がんの原因ウィルスの感染予防をするというプラスの面よりも、接種後に重篤な神経症状を起こすことがあることが気になっていた。
感染症に造詣の深いM先生が、「予防接種をすると百万人に一人くらいは死ぬ。それくらいの確率なら仕方ないが、それ以上の被害が出るワクチンは問題がある」とおっしゃった。
が、百万分の一にあたっちゃった人、その家族、その人を愛する人は仕方がないと思えるかどうか。
死亡しないまでも重大な後遺症が出た場合、人生が変わってしまうのである。
上の写真は、開業前、バイト生活をするようになって予防接種に関わることが多くなったので、購入した本である。この本は、反ワクでもなければ、有害事象を他の原因にすりかえることもなく客観的に書いているように感じた。その本では最初のほうに次のような文が書かれている。
「この世に完全に安全なワクチンは存在しません。将来も如何に医学が進展しようとも、感染症の予防に有効で、副作用ゼロというワクチンは開発されないでしょう。副作用はワクチンの本質と深く関わっており、切り離すことができないものなのです。・・・誤解を恐れずに書けば、大規模なワクチン接種では、誰か副作用の被害者となることが前提になっているのです。このためには、ワクチン接種による副作用の被害者の救済は、可能な限り厚くする必要があります。」
ワクチンを打つかどうかの判断は、飛行機に乗るかどうかの判断に似ている。自分は飛行機嫌いで、北海道旅行をする際もできるだけフェリーを利用しているが、日程が詰まっているときはそうもいかない。外国に行くとなればなおさらだ。各航空会社は安全に気を配っているであろうが、それでも少ない確率ながら事故が発生する。飛行機の墜落や機体の分解が怖いからと、飛行機をできるだけ避ける人もいるが、旅行を楽しみたい、出張、学会、留学、遠くの人に会うなどの目的を果たさなければならない場合、飛行機に乗らないわけにはいかない。危険と必要性とを天秤にかけるわけだ。
私が考えるすぐれたワクチンとは、罹患した場合の死亡率や後遺症率が高い疾患をターゲットにしていて、予防効果が高く、有害事象の確率が少ないものである。具体的には、破傷風、B型肝炎、海外に行く場合の狂犬病、黄熱病などである。HPVワクチンについては、個人的に接種後後遺症疑いの人を知っていることもあって肯定的ではなかった。
一方で、医療者からも、一般の人からも、「先進国ではHPVワクチンによって、子宮頸がんの罹患率が減っているのに、日本だけが遅れている」との声を聞くようになった。実際にG7(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、 カナダ)の中では、子宮頸がん罹患率はワースト1位だそうだ。2021年2月には9種の子宮頸がんと尖圭コンジローマのハイリスクウィルスに対応できるシルガード9が販売、2022年4月よりHPVのキャッチアップ接種(HPVワクチンの接種を逃した方のための接種、年齢制限あり)が行われた関係か、当院にも接種希望者が来るようになった。
恐る恐る接種して、接種後15分休んでもらっていたが、有害事象は起こらなかった。予防接種は私がすることも多いが、特に痛そうにする様子もなかった。
飯田下伊那地区では、皐月会という女医さんたちの集まりがある。新年会のように親睦のみが目的のこともあるが、多くは勉強会のあと、親睦会が行われる。
コロナ禍ではしばらく行われなかったが、私が開業してから、しばらくして再開されるようになった。この8月6日に私も参加した。テーマは「HPVワクチンセミナー」だった。産婦人科の申神正子先生(山口赤十字病院 第二産婦人科部長)からは、若い世代の子宮頸がん罹患者の悲惨なケースの話を聞いた。妊娠中に頸癌罹患がわかったケース、治療をはじめたが命を落とすことになったケース。乳がんほどの罹患率ではないが、子宮頸がんは80人に一人の罹患率であり、そのうち90%以上がHPV感染者とのことだ。さらに、301人に一人が子宮頸がんで亡くなっているという。検診にも組み込まれている子宮頸がんだが、決して過去の疾患ではないようだ。
講演の終わりに質問が受け付けられ、私は気になっていることを質問した。
1.HPVワクチンが子宮頸がんの予防につながることはよくわかりました。でも、ワクチン接種後に重症な神経障害を起こすケースがあり、勧奨を差し控えたのですよね。具体的に歩行障害になった方にもお会いしたことがあります。ですが、勧奨差し控えが終わったあとからは、そういう話を聞かなくなりました。ワクチンの質が変わって、有害事象が少なくなったのでしょうか?
2.HPVは男女ともに罹患するのに、日本ではなぜ女性だけが定期接種の対象なのでしょうか?HPVは性感染症でもあるので、男女ともに責任があるでしょう。遊び人の男性と交際して子宮頸がんに罹患した女性の話も聞きます。なぜ、男性も対象にならないのでしょうか?
それに対して、
1については、アジュバント(抗原と併用して免疫応答を高める免疫補助剤、免疫賦活剤であり、注射液に加えられる)が変わり、痛みが少なくなった。痛みが強いと神経障害を起こしやすいからではないか、とのこと。なお、少しの副反応でも、対応を早くするようにしたのも大きいだろうとのこと。
2については、もっともな意見であり、検討されているとのこと。オーストラリア、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツでは男子にも定期接種が導入されているようである。ちなみにHPVのある型は口腔がんの原因にもなっていて、オーラルセックスが行われるようになった現代、口腔がんの予防としての位置づけがあるかも知れません。
最後にお知らせです。
上記のように、HPVワクチンは、副反応が軽減され、シルガードになって対象ウィルスの型が増え、効果が大きくなりました。
小学校6年生から高校1年生相当の女性は、定期接種として公費で無料接種が受けられます。シルガードは15歳までに受ける場合、2回で終わらすことができます。その場合、9月中に受けていただかないと、6ヶ月あけないといけないため、来年の3月に2回目の接種をすることができなくなります。対象の方は9月までに1回目の接種を行ってくださいね。
HPVワクチンについて、中学生の女の子を連れたお母さんから質問があった。
「ワクチンは確実に子宮頸がんの予防に有効です。もっとも、一番の予防法は『チャラ男』(軽率に女性をナンパするチャラチャラした男性)と付き合わないことだけどね」
お二人は笑った。でも、真面目そうに見えている男性でも、感染していないという保証はない。
あっそうそう、公的な補助は出ませんが、男性の接種希望者も歓迎します。将来のパートナーを子宮頸がんから守るため、ご自身を尖圭コンジローマや口腔がんから守るためにも、ワクチン接種を考慮してみませんか。