長野県の健康長寿の秘訣は「きょういく」
- 2024年10月20日
- エッセー
長野県は教育県としても知られているが、「教育」ではなく、ひらがなで書いたのにはわけがある。
「きょういく」は、「今日行くところがある」をもじったもの。
この言葉は、先日10月12日に行われた南信医学会にて、新潟県魚沼市の上村医院の院長、上村伯人先生が講演中に述べた。上村先生は院長としての仕事の他に、地域の住民の健康のために「総合型地域スポーツクラブ」を開設したり、医師の少ない中でも在宅看取りができるように「看取り隊」(在宅看取り支援制度)を立ち上げたり、糖尿病のコントロールが悪い人に積極的に介入したりと多岐にわたって活躍している。そうした取組のおかげで、検診受診率は高くなり、メタボの率は少なくなり、糖尿病腎症による透析導入を全国平均の2/3に抑えることができたという。
新潟県魚沼市というと大抵の人は、ブランド米「こしひかり」の産地を思い浮かべるだろう。夏に行くと広々とした緑の田園風景が広がる。が、冬には豪雪地帯、高齢過疎、医師不足と医療的には厳しい条件がある。その中で、少ない医療資源でもやっていけるように、上記のような活動をされている。
先生は魚沼市で高齢者が先生が開設した「スポーツクラブ」に参加するようになって元気になったと述べる。そのなかで、長野県が長寿県になった理由の一つに、 高齢者の就業率の高さがあると思われるとのことだった。(1985年の調査から8回連続で全国トップを記録しているらしい)そういえば、患者さんや院外で知り合った人の中にも、70歳、80歳で元気に働いていらっしゃる人が多いように感じる。趣味を持つのも、お孫さんの世話をするのもいいが、「今日行く」場所があることが、なによりもの高齢者の健康維持に役立つと思われる。
私も、高校時代の夢を実現するという大義名分の他に、自分のような人間は「生涯現役」でいるしかないと感じ、教師から医師への転身を決めた。それなのに、政府は保険医の定年を70歳にすることを考えているという。運転免許のことといい、このことといい、政府は要介護老人を増やすような政策をしているとしか思えない。政治家のみなさん、引退の時期や運転免許返納の時期は、個人の判断に委ねることはできないのですか?高齢者の「今日行く」が高まるような政策を望む次第である。
写真は、南信医学会にて、上村先生、千葉先生、熊谷悦子先生、私がともに高田市(現上越市)出身と知って、記念写真を撮ったもの。こういうつながりができるのも嬉しいですね。8演題の発表もアカデミックで素晴らしいものでした。