研修会、ダブルヘッダー・・・肥満外来とGLP-1阻害薬
- 2023年7月7日
- クリニック業務
7月1日(土)、「肥満症サマーセミナー」のWeb受講と「産業医研修会」のダブルヘッダーをしました。
当院は、「土曜日も午後やっているので助かる」と言ってくださった患者さんもいらっしゃったのですが、その日は午前中で終了させていただきました。
「申し訳ありません、今日は院長の都合で午後はやっていないんです」
という受付嬢の声を背に、済まなく思いながらも、PCに耳を傾けていました。
13:40、タクシーを呼び、医師会会館へ。タクシーの中でも、イアホンをつけ、iPadでWeb講習の続きを聞いていました。
医師会会館到着。
今度は産業医の研修を受けたのです。
項目は、「男女雇用機会均等法における母性健康管理措置」、「高年齢労働者の産業保健上の対応」、「喫煙の健康被害と禁煙支援」、「メンタルヘルス不調者に対する職場復帰支援について」。今後、参考になりそうなことが多かったのです。禁煙支援については、8月末に講習会をすることを計画しているので、そのあとでUPするとして、今回は肥満症セミナーについてお話しましょう。
まずは、肥満症という言葉を見て、「えっ肥満って病気なの?」と思った人もいると思います。
肥満は確かに美容面だけではなく、健康にもよくありませんが、肥満そのものを病気扱いはしていません。
前に「院長自らダイエットすることに」に書いたように、BMI=体重(Kg)÷身長(m)の二乗が25以上の人を肥満と定義しています。
なお、肥満症とは、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併する病態を言います。肥満症の基準となる健康障害は、1)耐糖能異常(2型糖尿病、2型糖尿病まではいかないが耐糖能異常があるケース)、2)脂質異常症、3)高血圧、4)高尿酸血症、5)冠動脈疾患、6)脳梗塞・一過性脳虚血発作、7)非アルコール性脂肪性肝疾患(脂肪肝に肝機能障害を伴ったもの)、8)月経異常・女性不妊、9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、10)運動器疾患(変形性関節症[膝、股関節、手指関節])、11)肥満関連腎臓病の11疾患である。で、ただの肥満は単純肥満といいますが、実際に軽度肥満(25≦BMI<30)の人はともかく、中等度肥満(30≦BMI<35)や高度肥満(BMI≧35)の人は上記の疾患を合併している場合が多いですね。
さて、最初は開院1年後くらいに肥満外来を開設する、と考えていましたが、需要があり、患者さんもいらっしゃったので、急遽開設したのは、前にも書いたとおりです。
ところで、患者さんの中には、減量薬の処方を希望する方も何人かいらして、原則、生活指導でダイエットする方針の私としては、一旦お断りしたのですが、スタッフの中には、「来なくなったら、そのままなのだし、とりあえず処方したら」という意見もあり、最近、「ダイエット外来」なるものでよく使われているGLP-1受容体作動薬の使用を検討したんです。
すると製薬会社の人が2回に渡って訪問し、
1.糖尿病以外の人に保険適応はなく、自費診療になること
2.自費診療で処方し、副作用が出たとしても、我々は責任が持てない
3.自費診療の場合、薬局では処方できないので、院内処方になるが、薬価が高く、患者さんが中断したら、残りの薬代は病院の損失になる。
と伝え、「どうか、薬の適正使用を」と訴えていきました。
今、ダイエット外来と検索するとGLP-1作動薬を使ってのダイエットが華々しく宣伝されています。
「食事制限、運動なしで痩せられる!」と。
この薬は、本来は糖尿病治療薬なんです。GLP-1とはインスリンを分泌しやすくするホルモンです。GLP-1作動薬は、そのGLP-1を分泌させる働きをします。GLP-1は、食事をとって血糖値が上がると、小腸にあるL細胞から分泌され、すい臓のβ細胞表面にあるGLP-1の鍵穴 (受容体) にくっつき、β細胞内からインスリンを分泌させます。GLP-1は、血糖値が高い場合にのみインスリンを分泌させる特徴があります。血糖が高くなったときのみに作動するということは、低血糖を起こしにくいのです。糖尿病薬としてすぐれものなんです。でも、インスリンは細胞に糖を取り込むので本来、インスリンやインスリンを出す薬を使うと若干太りやすくなるんです。
それなのに、なぜ痩せられる?
胃での停滞時間を長くして摂取した食物の胃からの排泄を遅らせたり、食欲を抑えたりするside effect(副作用と似てますが、本来の目的以外の作用をいいます)働きがあるからです。ダイエット外来で処方されるのは、このside effectを利用したものです。でも、そのside effectも行き過ぎれば、下痢、便秘、吐き気・嘔吐などの胃腸症状がみられることがあるわけです。これらの多くは使い始めに生じても、しばらくするとおさまりますが、食欲を人工的になくしてのダイエットっていうのも不健全な気がします。この薬が肥満解消の薬として認可されているアメリカでは、減量効果がみられて、ダイエットのやる気がUPするらしいのですが、生活習慣を変えずにダイエットする方がいるので、多くは薬をやめるとリバウンドするようです。 スリープ状胃切除という胃の一部を切り取る減量手術においても、やはり元の食生活に戻るとリバウンドすることがあるようです。アメリカでも、BMI(体格指数)27㎏/m2以上 の患者で少なくとも1つ以上の体重関連疾患(高血圧、2型糖尿病もしくは高脂血症)を持つか、あるいはBMI(体格指数)30㎏/m2以上 の患者さんで、食事療法と運動療法で体重管理を実行している方とのことですので、生活習慣を変えずに楽して痩せようという方への適応はありません。日本でも薬物療法の適応は、高度肥満症(BMI≧35)で肥満症の基準となる健康障害を1つ以上、または肥満症で内臓脂肪面積≧100cm2以上( メタボリックシンドローム基準の一つである、ウエスト周囲径、男性85cm、女性なら90cmが内臓脂肪面積100cm2に相当)かつ合併症を2つ以上有する症例で、生活習慣改善を3~6ヶ月行って適切な減量が得られなかった場合に限られるようです。
当院では、原則減量目的でのGLP-1作動薬の処方は行いませんが、自費診療でもかまわないという方で日本での薬物療法開始の基準にあっている方、すでに糖尿病の方には処方を検討します。またウゴービという容量を少なくした薬が減量目的での使用を申請中だそうです。申請が通ったら、検討する予定です。
なお、セミナーを受講して、肥満外来では、減量開始に至るまで準備期間を設けているようだと知りました。当院で開始したときは、十分な時間をとらずに減量の説明をしてしまったことが反省材料です。肥満者の多くは、精神的なストレスで過食に至っていることも多く、それをどう解決するか、一緒に考えていくことも必要でしょう。セミナーでは、寝食忘れて打ち込める趣味に没頭した結果、爆食から卒業でき、減量成功したケースも取りあげていました。当院でも、院長、スタッフと一緒にストレス過食の問題の解決に取り組む予定です。
P.S.院長自身のダイエットは、お菓子を原則食べないことによって微減しております。良い報告ができるよう、頑張ります。