自然にダイエット
- 2025年6月29日
- エッセー
肥満外来にいらっしゃっているMさんの体重がぐっと減っていた。
当院の肥満外来では、食事記録をはじめとした生活記録を提出してもらっている。
カステラ、お寿司のパック、唐揚げ等々。
「あれっ、結構ダイエットにはよくないものを食べているのに減っているね。結果オーライだけれど、どうしてなのかなあ」
「開店してから忙しくて、食べる暇もないし、動き回っているから」
Mさんからは近々お好み焼き屋さんを開く予定だと聞いていた。
「へえ、いよいよだったのね。取材に行っていい?」
OKが取れ、Mさんからは名刺をもらった。
Mさんの店は、昔小腹が空いたときに入ったことのあるカウンター席少しとTake out販売をしている「地元産和風喫茶」とでもいうべき店を改装したものだった。
カウンター席4席と4人がけテーブル席だけの店だったが、狭いながらも十分、ご家族、友達、友人を連れてくつろぐことのできる店であり、店はカウンター席を除いて満席だった。
予約でいっぱいだったとのことだが、「1席だけ1時間なら空いている」とのことで、カウンター席に座った。
肉が苦手なので、「ヘルシー玉」という、イカ、大葉、梅が入っているお好み焼きにした。
純米酒を頼み、追加で冷奴をいただいた。
店にいる間中、Mさんはくるくる動き回っていた。
中学時代バスケット部にいたこともあるだけあって、的確に動く。お手伝いに来ている人もいたが、その何倍も動きが早い。
なるほど、これならば、意識しなくてもダイエットできるなあ、と納得した次第。
同じようなことが健和会勤務医時代にもあった。ヤングアダルト世代のXさんはメタボ体型。高血圧、糖尿病、脂質異常症と三大生活習慣病にて通っていた。
ところが久しぶりに会ったXさんは体型がすっきりしており、血圧も下がっていた。
聞いてみると夜勤の仕事から、昼間肉体労働する仕事に変わり、自然に痩せたとのこと。
「薬を切ってみて、1ヶ月後フォローしましょうか」
結果は合格。
「よかったね。ここに戻ってこなくて済むようにね」とXさんを送り出した。
「ダイエットは運動1割、食事9割」(森拓郎著)という本があるが、患者さんでジム通いを頑張って、食事を少し控えめにしている人はいるが、痩せてこない。
何人もそういう人は見てきた。やはり、カロリー制限したり、7号食ダイエットなどを取り入れて、やっと減量できる。が、MさんやXさんのように常に動き回っている状態になると、運動による減量効果は出てくる。
そういえば、肥満のおこさんは少ない。よく食べるようでいて、チョロチョロ動き回っているからだろう。
皆が動き回る立場に身をおけるとは限らないが、1つの例であろう。
「健康のために運動する」というのはダイエット効果は少ないにせよ、筋力をつけるためにも、将来のフレール(加齢により心身が老い衰えた状態)を防ぐのにも有用である。
一方、MさんやXさんのように自然に動き回ることはダイエットにつながる。そこまでいかなくても、家族や友人、恋人と自然を楽しみながら散策する。楽しみで、ゴルフやテニスをする。愛犬のために散歩に付き合う。こういう機会がある人は幸いである。
話をMさんの話に戻そう。4回目のMさんの店への訪問で、ようやく「取材」をすることができた。Mさんは思春期のころから「食べること」が好きだった。「好きを仕事にする」べく、料理会の東大ともいわれている専門学校で学び、フランス料理を専攻。ホテルで修行したり、パテシェとしてオン・ザ・ジョブ・トレーニングをした時期もあった。結婚を機に、飯田に帰って子育てに専念した期間もあり、その後飯田市内でカフェや飲食店の勤務を経て、やっとご自分の店を持つことができたようだ。苦労も少なくなかったようで、それを経て今の喜びがあるのだろう。
喜びをもって、寝食忘れて動き回る。ふと、美味しくてヘルシーな食事でくつろぐ。究極の「自然ダイエット」かも知れない。